フラクタルの影が面積をもつ方向
シェルピンスキー四面体,H-フラクタル,T-フラクタルの 3 個のフラクタルイマジナリーキューブは,光をあてる方向によって,正方形をはじめとする面積を持つ影をもつ場合と,面積が0の影をもつ場合がありました。どういう時に面積をもつ影ができるのでしょうか?



上図のように,これらのフラクタルを辺の長さが 1 の箱に入れた状態で考えましょう。そして,箱の左手前の頂点を原点にして,箱の3辺を x, y, z 軸とし, (a, b, c) という座標から原点に向けて光をあてて影を作っているとします。その時に,次のことが成り立ちます。
- まず,aと b, b と c, c と a のどれかの比が無理数の時には,影の面積は 0 になります。
- そうでない時,すなわち a, b, c の比が有理数の時には,
a, b, c それぞれに何かを掛けても光の方向は変わらないので,a, b, c がすべて有理数と考えても大丈夫です。さらに,a, b, c の分母の最小公倍数をかけることにより,a, b, c が整数の場合だけを考えればいいです。さらに,最小公約数で割ることにより,a, b, c が互いに素(すなわち,公約数をもたない) 時だけを考えればいいです。a, b, c が互いに素な整数の時,次のことが言えます。
- シェルピンスキー四面体の場合には,a, b, c の和が奇数となる方向から光をあてれば正の面積の影ができ,偶数なら面積が 0 の影ができます。
- T-フラクタルの場合には,a, b, c の和が 3 の倍数でないなら正の面積をもち, 3 の倍数なら面積が 0 になります。
- H-フラクタルの場合には,a, b, c の和が 3 の倍数でないか, a と b と -(a+b+c)/3 を 3 で割った余りが全て 1 か 全て 2 であるなら正の面積をもち,それ以外なら面積が 0 になります。少し計算をすると,前者の条件を満たす (a,b,c) の方向を x=y=z の軸の周りで 60 度回転すると,後者の条件を満たす方向になることがわかります。
H-フラクタルの場合に T-フラクタル の場合より光をあてて正方形になる方向がたくさんあるのは,H-フラクタルがダブルイマジナリーキューブであることと関係しています。
この結果は,これら3個のフラクタルをより一般化した Layered Fractal Imaginary Cube に対して証明がされています。詳細は, この論文 をご覧ください。
具体例
具体例でこのことを確認してみましょう。
上の絵と射影方向から,どんな影ができるか想像しながらご覧ください。
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(0,0,1)
上の正方形の3個の絵は,座標軸方向,すなわち,(1,0,0), (0,1,0), (0,0,1) から射影して得られます。 1 + 0 + 0 = 1 は奇数でもあり3で割り切れない数でもあり,面積を持つための条件と合致しています。 それに加えて,H の場合は,(-1,2,2), (2,-1,2), (2,2,-1) からの射影でも正方形の影ができます。
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(1,1,1)
これは,(1,1,1) からの射影像です。 シェルピンスキー四面体は 1 + 1 + 1 が奇数なので面積のある影ができ, H-フラクタルと T-フラクタルは 1+1+1 が3の倍数なので面積 0 の影ができます。
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(1,1,0)
これは,(1,10) (および,(0,1,1), (1,0,1))) 方向からの射影像です。1+1+0 = 2 は偶数ですが 3 の倍数ではないので,S については面積 0で, H と T については正の面積をもちます。 この H と同じ影は,(1,0,4) (および,(0,4,1), (4,1,0)) 方向からの射影でも得られます。
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(1,1,-1)
これは,(1,1,-1) (および,(-1,1,1), (1,-1,1)) 方向からの射影像です。1+1+(-1) = 1 は2 の倍数でも3の倍数でもないので,どの影も面積があります。また,この H と同じ影は, (1,1,-5) (および,(-5,1,1), (1,-5,1)) からの射影でも得られます。
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(1,1,-2)
最後に, これは (1,1,-2) (および (-2,1,1), (1,-2, 1)) 方向からの射影像です。1+1+(-2) = 0 は偶数でも3の倍数でもあるので,どの影も面積 0 です。